目次
1.「社会的な援護を要する人々」と今日的な「つながり」の必要性
2000(平成12)年12月、厚生省(現・厚生労働省)が設置した「社会的な援護を要する人々に対する社会福祉のあり方に関する検討会」がまとめた報告書は、現代社会特有の福祉課題として、「心身の障害・不安」(社会的ストレス問題、アルコール依存等)、「社会的排除や摩擦」(路上死、中国残留孤児、外国人の排除や摩擦など)、「社会的孤立や孤独」(孤独死(孤立死)、自殺、家庭内の虐待・暴力等)などを取り上げた。
これらは、一過性の問題ではなく、また、特定の地域だけで起こる問題でもない。わが国の現代社会において構造的に起きている問題であり、従来の社会福祉サービスによる現金給付や、個別の対人サービス(ホームヘルパーやデイサービス等)の提供だけでは対応が困難な問題である。
同報告書は、これらの問題の背景には、社会的な排除や摩擦、孤独、無関心など、社会の支えあう力の弱まりがあり、対応にあたっては、「新たな●●●」の創造が必要であるとして、「今日的な『つながり』の再構築を図り、すべての人々を孤独や孤立、排除や摩擦から援護し、健康で文化的な生活の実現につなげるよう、社会の構成員として包み支えあう(●●●)ための社会福祉を模索する必要がある」と提起した。
2.孤立死の防止
孤立死は、高齢者や特定の地域のみの課題ではなく、中年層を含めてどの地域でも起きている問題である。たとえば、1960・70年代に大都市近郊に相次いでできた「ニュータウン」は、50年を経て子供たちが家を出たために急速に高齢化が進み、独居高齢者や高齢者夫婦のみ世帯の割合が増え、孤立死防止が大きな課題となっている。
国全体でみると、●●●年には、全世帯の●●●%が高齢者の単独世帯、●●●%が高齢者夫婦のみの世帯になるという推計(表3)があるように、孤立死の問題は今や特定地域の特別な問題ではなくなっており、全国民的課題といってもよいだろう。
孤立死は、大家族制や濃密な近隣関係がある時代にはあまり問題にならなかったが、それらの喪失により目立つようになってきた。これまで、消防署や警備会社などとの連携による市町村の緊急通報システム、公営住宅での生活援助員(LSA:●●●)の配置、老人クラブ会員による●●●訪問、民生委員による定期的訪問、社会福祉協議会の小地域ネットワーク活動による近隣住民の見守り活動、ボランティアなどが行う配食サービスの配達時の安否確認、電気・水道・ガスなどの検針の際の安否確認、人感センサーの活用など、官民を挙げてさまざまな取り組みが行われている。
国においても、厚生労働省を事務局に関係各省庁が加わり●●●年度に「孤立死ゼロ・プロジェクト」がスタートした。もとより孤立死防止は、それぞれの地域の特性に応じて展開されることから、同プロジェクトも一律の基準により補助金を出すというような事業ではなく、「高齢者などが一人でも安心して暮らせるコミュニティづくり推進会議」(以下「推進会議」)の設置によるコミュニティづくりに対する提言や、「孤立死ゼロ・モデル事業」による自治体における取組のあり方の研究などを進めた。このうち、推進会議で示された国土交通省の資料(表4)は、まちづくりの視点から孤立死防止に取り組む際に参考となる枠組をわかりやすく示している。
表4 孤立死防止のための取り組みの方向
視点 | 取り組みの方向 | |
A | 外に出て活動しやすい環境 |
(1)住宅、共用部のバイアフリー化 |
B | 店舗や施設と住宅との近隣性 |
(1)都心部での高齢者向け住宅の整備 |
C | 帰属できるコミュニティ |
(1)コミュニティ活動の拠点となる施設の整備 |
D | 万一に備えた見守り |
(1)福祉施策との連携 |
孤立死防止というと、表4のDのように、「万一に備えた見守り」を中心に考えがちであるが、本来は、Cにある「帰属できるコミュニティ」の存在が不可欠であり、そのためにはCの(1)にある「拠点となる施設の整備」も必要である。さらに、Aのように、「外に出て活動しやすい環境」の整備も必要とされるのである。
ここに挙げられているように、コミュニティづくりの活動とそれを進めるための環境整備を広く行ったうえで、まさしく「万が一のことが起きたとき」に備えるしくみをつくるという姿勢が必要である。この視点に立つと、ハード面のまちづくりや環境整備が孤立死の防止にもつながることが理解できるだろう。
また、●●●年4月には、「地域において支援を必要とする者の把握及び適切な支援のための方策等について」(厚生労働省社会・援護局地域福祉課長通知)が発出され、各省庁からそれまでばらばらに発出されていた孤立死防止の取り組みに関連する通知をあらためて一体的に示し、地方自治体内の各部署が連携して孤立死防止に取り組むことを要請している。
福祉住環境コーディネーターとしては、閉じこもり防止策とも共通することであるが、外出しやすい環境づくり、あるいは、地域活動の拠点整備等での役割の発揮が期待される。特に、拠点整備では、●●●の有効活用が現実的な対応策であり、高齢者に配慮した改修の提案や、地域の中で活用可能な建物を探し出すことなども期待される。
3.災害時における要配慮者と防災対策
わが国は、台風、地震、津波、豪雪、集中豪雨、火山噴火など、災害多発国である。災害は誰にでも起こる問題であるが、なかでも災害時に高齢者や障害者などを地域社会がどのように支えられるかは各地域に課せられた大きな課題である。
「災害対策基本法」第8条第2項は「国及び地方公共団体は、災害の発生を予防し、または災害の拡大を防止するため、特に次に掲げる事項の実施に努めなければならない」としたうえで、同項第十五号で「高齢者、障害者、乳幼児その他の特に配慮を要する者(以下「要配慮者」という。)に対する防災上必要な措置に関する事項」を挙げている。
たとえば、2004(平成16)年7月、新潟・福島豪雨の死者・行方不明者21人のうち17人は65歳以上の高齢者であった。東日本大震災(2011(平成23)年3月)では、被災地(岩手県、宮城県、福島県)の60歳以上人口が約●●●%であるのに対し、死者に占める割合は約●●●%であった(「平成23年版防災白書」)。これらのデータでも明らかなように、災害はすべての人にとって脅威ではあるが、なかでも高齢者や障害者等の要配慮者にとって、その備えは命に直結する問題である。
防災については、個人や世帯単位での取り組み、「災害対策基本法」に基づいて行政(国および地方自治体)が行う環境や体制整備に加え、地域社会に期待される役割が大きい。各地域には、地方自治体の支援の下、町内会・自治会が中心となって自主防災組織が結成されており、平常時には防災訓練、啓発、機材整備などを行い、災害時には初期対応、避難誘導、情報伝達などを行うこととなっている。
このような地域の各種組織をネットワーク化し、住民全体が参画する方法での防災活動を土台にしながら、要配慮者に対象を絞った取り組みも必要とされる。たとえば、防災無線で避難指示が出されたときに、隣に住む耳の遠い高齢者が聞き漏らしていないかを確認することや、夫婦のみの世帯で寝たきりの高齢者がいれば、とりあえず近所の人が手伝って早めの避難をすることなどは、本来それほど難しいことではない。ただし、それを災害時に機能させるためには日ごろの地域住民同士の結びつきや、役割分担などの一定のルール化が必要である。
各地に配置されている民生委員は、●●●年度から「災害時一人も●●●運動」を展開し、一定の成果も上げたが、民生委員だけではおのずと限界があり、いかに多くの地域住民が参加した取り組みができるかが課題であり、2013(平成25)年に活動指針も作成されている。
防災や防災活動などは、すべての住民の生活に直結した問題であり、それらの活動が手掛かりとなって、地域住民の連帯が強まるという例は多い。厚生労働省の通知では市町村が策定する地域福祉計画の中に、民生委員や近隣住民などの参画の下、要配慮者の「緊急対応に備えた役割と連絡体制づくり」を盛り込むように求めているが、たとえば、それぞれの地域の実情を踏まえながら、この体制づくりを地域で検討することで地域のつながりを強めることも可能になるだろう。
防災に関しては、さまざまな場面で福祉住環境コーディネーターの特性を生かしたかかわりが考えられる。たとえば、住宅改修の際に耐震性などを考慮したアドバイスをしたり、地域内で障害者や高齢者などにとって避難時に支障となる箇所を点検して関係機関に改善提案をすることも考えられ、それを地域住民と一緒に取り組めば、住民の気づきにもつながるだろう。そのような方法も含め、自主防災組織に加わり啓発事業を手伝うことなども考えられる。
4.判断能力が不十分な人の権利擁護
2005(平成17)年5月、埼玉県富士見市で高齢の認知症の姉妹が過去数年間にわたって複数の悪質な住宅リフォーム業者につけこまれ、総額で4千数百万の契約を結ばされた事件が発覚した。この事件では、リフォーム業者規制のあり方も問われたが、改めて福祉関係者に、認知症など判断能力が不十分な人の権利擁護の必要性を認識させた。
従来、日常的に介護を必要とする人や判断能力が低下した人は、家族と同居して援助を受けながら暮らすか、そうでなければ入所施設で暮らすことが多かった。そのような環境であれば、家族や施設職員が、いわば「防波堤」になることで、高齢者が悪質な業者と直接接触する可能性は低く、被害者にはならなかった。このことは、直接応対することによって被害者となってしまう振り込め詐欺や強引な訪問販売被害などに関してもあてはまる。
しかし、子どもや孫などとの同居率が減少し、住宅重視の福祉施策が推進される中で、判断能力が低下した高齢者や障害者などが、単身で、あるいは夫婦や兄弟姉妹などで暮らす例が増えている。
在宅重視という福祉施策の方向自体に誤りはないが、安心、安全な在宅生活を実現するためには、食事、入浴、排せつなどの生活行為の支援だけでなく、判断能力が不十分な人を財産侵害などから守る支援策を整備する必要がある。
その場合、以下に述べるように、公的な制度による支援と地域の人々によるインフォーマルなかかわりという2つの支援が必要とされる。
『1』権利擁護のための公的な制度
(1)成年後見制度
「民法」は、未成年者(20歳未満)は判断能力が不十分だということで、一律に親に保護者としての権限を与え、未成年者が親の同意なしに結んだ契約などの法律行為は取り消すことができると規定している。これに対し、成年になると誰でも単独で有効な法律行為を行うことができるが、たとえば、重度の知的障害者や認知症の高齢者等は、本人の判断をそのまま尊重すると、場合によっては本人にとってマイナスになってしまうことがある。
前述の認知症の姉妹のリフォーム詐欺被害はその典型例であり、同様の事例が数多く起きている。そこで、判断能力が低下している成年者に対して●●●をつけ、その●●●が本人に代わって法律行為を行ったり、本人が行った不利益な契約を取り消す権限を●●●に与えることで、判断能力が低下している人の権利を●●●するしくみが成年後見制度である。
成年後見制度には、「民法」によって定められた法定後見制度と、任意後見契約に関する法によって定められた任意後見制度とがある。
①法定後見制度
法定後見制度は、ある時点で、すでに判断能力が一定以上低下している人の権利を守るために、●●●親等以内の親族や●●●者、●●●などの申立に基づいて●●●が審判を行い、誰を保護者にするかや、その保護者に付与する●●●の内容などを決定する制度である。保護者には、本人のために代理権や取消権を行使する権限が与えられるが、実際にどの範囲までの権限を与えられるかは、保護を受ける本人の判断能力の程度に応じて●●●段階(類型)に分かれている。
類型 | 補助 | 保佐 | 後見 |
本人 | 被補助人 | 被保佐人 | 成年被後見人 |
保護者 | 補助人 | 保佐人 | 成年後見人 |
意思能力 | 精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分な人 | 精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分な人 | 精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある人 |
取消権 | 民法第13条第1項に規定する行為のうち、申立の範囲内で家庭裁判所が定める特定の行為 | 民法第13条第1項に規定する行為 | 日常生活に関する行為以外のすべての法律行為 |
代理権 | 申立の範囲内で家庭裁判所定めた特定の行為 | ||
開始時の本人同意 | 必要 | 不要 | 不要 |
このうち、「後見」類型が判断(意思)能力の低下がいちばん著しい状態であるが、この場合でも、「日常生活に関する行為」は代理権の対象にはならず、あくまでも本人の意思が尊重される。また、「補助」類型では、本人に一定の判断(意思)能力があることから、制度利用にあたっては、●●●が必要とされる。
②任意後見制度
任意後見制度は、判断能力のある人が、将来、判断能力が低下したときに受けたい支援内容を自分で考え、それを実行してもらう契約を、自分で選んだ人との間で公正証書によって結んでおき、その後、実際に本人の判断能力が低下した段階で、あらかじめ頼まれていた人が後見人として正式に事務を開始する制度である。
いずれの制度も、法律によって利用条件や手続きなどが細かく決まっており、詳細を理解することは容易ではないが、少なくとも、福祉住環境コーディネーターをはじめ高齢者や障害者等の支援にかかわるすべての専門職は基本的知識を身につけておき、制度の利用が必要だと思われる場合に、本人や家族に基本的なことを説明したり、必要に応じて速やかに自治体の窓口や弁護士、司法書士、社会福祉士などの専門職につなぐ役割が期待される。
(2)日常生活自立支援事業
日常生活自立支援事業は、●●●社会福祉協議会および●●●社会福祉協議会が、在宅福祉サービスの一つとして●●●等の補助金により行っている事業である。
成年後見制度が本人に代わって後見人などが判断をして代理で法律行為を行うのに対し、この日常生活自立支援事業は、日常的な金銭管理や預貯金の出し入れに不安がある人などを対象にして、あくまでも●●●にそってそれらの行為を支援したり代行する事業である。
日常生活自立支援事業では、あらかじめ立てた計画に基づいて預貯金を一定額下して本人に届けたり、公共料金の支払いを行うなどの●●●サービスや、定期預金の証書や不動産の権利証などを安全に保管する●●●サービスなどが行われている。
実際の事業の運営では、都道府県や指定都市の単位ではきめ細かな支援が困難なことから、都道府県社会福祉協議会および指定都市社会福祉協議会が、それぞれ管内の市や区の社会福祉協議会と協働で事業を行っている。
当該の市や区の社会福祉協議会には、利用者の調査や利用契約の締結、支援計画の策定などを担当する●●●と、実際に預貯金の出し入れなどを行いながら日常的に利用者の支援の当たる●●●という2つの職種が配置されている。
成年後見制度と同様、日常生活自立支援事業に関しても、福祉住環境コーディネーターをはじめとする高齢者や障害者などの支援にかかわるすべての専門職が基本的な知識を身につけておき、利用者が有効だと思われる場合に本人や家族に話をしたり、地元の社会福祉協議会に紹介するなどの役割が期待される。
【2】近隣住民のかかわりの必要性
成年後見制度は、たとえば、判断能力が低下した人が不要なリフォーム工事契約が低下した人が不要なリフォーム工事契約を結んでしまった場合、後見人が取消権を行使してその契約自体を無効にできるというように、主に法律行為にかかわる支援機能をもっている。その効果は大きいものの、成年後見制度による後見人が、生活のすべての支援を引き受け、毎日の安否確認や日常生活上のちょっとした手助けを常時できるわけではない。それらの点は、やはり近隣の人々の協力を抜きには成り立たない。
振り込め詐欺や悪質な訪問販売などは、近隣との頻繁な行き来がある人、地域のサークルやクラブなどに所属し友人が多い人は被害にあいにくいといわれている。悪質な訪問販売業者にだまされた高齢者が「私にはずっと話し相手がいなかったが、その訪問販売業者の人はじっくりと話し相手になってくれてうれしかった」と語ることは決して珍しくない。
このような例をみると、近隣との人間関係が希薄になっている独居の高齢者などは、認知症などの症状をもっていなくても、振り込め詐欺や悪質な訪問販売などの被害にあうリスクをより多くもっているともいえる。
これまで述べてきた孤立死の防止や災害時の要配慮者に対する支援策と同様、安心、安全な暮らしの実現には近隣との人間関係づくりが不可欠であり、福祉コミュニティづくりを進めることは、これらのさまざまな被害に対応する抑止力を高める効果をもっていることは間違いない。
5.地域で暮らす認知症高齢者に対する支援とコミュニティ
国は、今後いっそうの増加が見込まれる認知症高齢者に関わる施策を総合的に推進するために、2015(平成27)年1月に「認知症に人の意思が尊重され、できる限り住み慣れた地域のよい環境で自分らしく暮らし続けることができる社会の実現を目指す」ことを目的として、「認知症施策推進総合戦略~認知症高齢者等にやさしい地域づくりに向けて~(●●●プラン)」を取りまとめた。同プランでは、「終わりに」の部分で「認知症高齢者等にやさしい地域は、決して認知症の人だけにやさしい地域ではない。困っている人がいれば、その人の尊厳を尊重しつつ手助けをするというコミュニティのつながりこそがその基盤となるべきであり、認知症高齢者等にやさしい地域づくりを通じて地域を再生するという視点も重要である」と述べ、認知症高齢者にとってやさしい地域づくりがコミュニティの●●●にもつながるという視点を示した。
認知症高齢者の支援には、医療や介護などの専門的サービスの量的、質的拡大が不可欠であるが、同時に、認知症高齢者等にやさしい地域づくりを通して住民が参画できる場面も多い。すでに、全国各地で住民が主体となったさまざまな取り組みが行われているが、ここでは今後の拡がりが期待される二つの取り組みを紹介する。
①徘徊認知症高齢者への早期対応
一つは、徘徊をする認知症高齢者等を素早く見つけるためのしくみづくりである。認知症高齢者の徘徊は、夏は脱水や熱中症の、冬は寒さの危険にさらされることになり、発見が遅れればそれだけ危険性が増すことになる。注意力や危険予知力が低下しているために事故にもあいやすくなり、2007年には家族が目を離したすきに一人で外出した認知症の男性が電車の線路内に入って死亡した事故があり、残された家族に鉄道会社が列車遅延による損害賠償請求の裁判を起こした例もある。
このように、徘徊は本人の危険性だけでなく周囲を巻き込む場合もあり、行方不明になった場合の早期発見のしくみづくりが不可欠である。全国各地で行われている取り組みでは、地方自治体、警察、消防などの公的機関や地域の福祉関係機関だけでなく、町内会や自治会の役員、民生委員、登録ボランティア、鉄道会社、社員が外回りをしている事業者(郵便や新聞配達、電気やガスの検針員、宅配便、タクシー、バス事業者)、従業員が外を見やすい店舗(コンビニ、ガソリンスタンド、床屋、美容院など)等、多くの民間事業者や市民が協力機関になり、徘徊をしている認知症高齢者等の情報を受け取ると発見と通報、保護に協力することになっている。また、コミュニティFMが優先的に情報を流す地域もある。このようなしくみを作っている地域では、認知症高齢者の理解のため研修や訓練を行っており、そのことを通して、徘徊による行方不明という緊急時だけでなく、日ごろから認知症高齢者を地域で見守るための理解が市民に拡がりつつある。
②認知症カフェにおける交流
もう一つは、認知症カフェの取り組みである。法律に基づくサービスではないので実際の取り組みの名称や内容はさまざまであるが、一般に、NPOや家族会などが地域住民の支援を得ながら、認知症高齢者や家族などが気軽に集まってお茶を飲み、おしゃべりや情報交換をする場として、民家や空き店舗などを活用して運営している例が多い。前述の「新オレンジプラン」でも、「認知症の人やその家族が、地域の人や専門家と相互に情報を共有し、お互いを理解しあう認知症カフェなどの設置を推進する」と福祉住環境コーディネーターとしては、仕事の内容にもよるが、徘徊している人を発見するための協力者に登録することが期待されている。また、認知症カフェに関しては、多くの取り組みで既存の民家やレストランなどを活用していることを考えると、改修のためのアドバイスの役割が期待される。
6.福祉コミュニティづくりと個人情報保護
「個人情報の保護に関する法律(個人情報保護法)」は、個人情報をデータベース化した名簿業者などが、本人の同意を得ずに勝手に第三者と売買し、それによって個人のプライベートが侵害されたり、執拗な販売勧誘などを受けることを防ぐために●●●年に制定された。
「個人情報保護法」の規制対象になるのは、その事業者や団体が営利を目的にしているか否かにかかわらず、個人情報を利用する●●●の事業者であり、町内会や自治体といった団体を含め、個人情報の取り扱いには「●●●をきちんと説明する」「勝手に●●●に使わない」「しっかり●●●する」などのルールが課せられている。
一方、この法律の誤った解釈が円滑な社会生活を妨げている事例が多数起きている。たとえば、地縁組織である町内会の名簿が作れないという話があるが、これはほとんどの場合、「個人情報保護法」との関係というよりも、地縁組織のあり方として考えるべき問題である。少しでも問題が起きそうなことは避けるという風潮が生まれ、その結果、名簿づくりなどに困難が生じている。
確かに、「個人情報保護法」が制定される以前、家族構成も掲載した町内会名簿が外部に流出し、一人暮らしの高齢者が悪質商法の被害にあったという話があり、現実には、悪意の第三者がいつでも狙っているということは意識しなけれなならないが、一方で孤立死予防にしても、災害時の避難行動要支援者の支援にしても、一定の個人情報の開示や第三者への提供を抜きにその目的を達成することはできない。
内閣府の調査によると、「防災・防犯のためであっても個人情報を共有・活用しない方がよい」という答えは、成人男性で8.6%、同女性で5.3%にすぎず、大多数は、「防災・防犯のため」という条件付きではあるが、個人情報の共有や活用に理解を示している。
その点では、国や地方公共団体が中心となって「個人情報保護法」の正確な理解を拡めつつ、現実のリスクと法に基づく正しい運用のあり方を勘案しながら、最低限、第三者に知らせてもよい情報を吟味したうえで、その活用をルール化し、必要最小限の範囲で関係機関による個人情報の共有を進めるべきであろう。
2013年の「災害対策基本法」の改正でも、避難行動要支援者名簿の作成を市町村に義務付けた際に、市町村がもっている他の目的で取得した個人情報を名簿作成のために利用できることや、本人の同意を得たうえでという条件つきではあるが、平常時から消防機関や民生委員などに情報提供すること、さらに、災害時には本人の同意がなくても関係者に情報提供できることなどが定められており、この方針の沿って積極的に関係機関との情報共有や情報提供をしている自治体もある。
なお、児童虐待や高齢者虐待などの予防との関連では、虐待が疑われる場合に、そのことを関係機関などに通報する行為は「刑法」の秘密漏示罪などには該当しないという趣旨の規定が各法に明記されている。
改正前の個人情報保護法では、5000人以下の個人情報しか有しない中小企業・小規模事業者の場合は、個人情報取扱事業者(個人情報データベースなどを事業に用いる者)の適用対象外となっていたが、改正個人情報保護法により個人情報を取り扱う「すべての事業者」に個人情報保護法が適用される。ただし、小規模の事業者の事業が円滑に行われるように配慮され、安全管理の措置について中小規模事業者に対しては特例的な対応方法が示されている。
個人情報:生存する個人に関する情報であり、氏名や生年月日などにより特定の個人を識別することができるもの